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ルネ・マルタンのメッセージ

ラ・フォル・ジュルネ新潟の開催に寄せて

ルネ・マルタン2010年にスタートしたラ・フォル・ジュルネ新潟(以下、LFJ新潟)が今年、3年目を迎えます。私の故郷ナント(フランス)の姉妹都市である新潟で、ラ・フォル・ジュルネが根付き始めていることに大きな喜びを感じています。
昨年は、日本全国のラ・フォル・ジュルネの最終公演が新潟で行われました。井上道義さんが指揮する仙台フィルハーモニーの公演に駆けつけてくださったお客様のあたたかな熱気と連帯感、そして30分の間なりやむことのなかった拍手を、感動と共に思い起こしています。ベートーヴェンの音楽の普遍性と無限の可能性を、りゅーとぴあという素晴らしいホールで再確認しました。

今年のLFJのテーマは、ロシア音楽です。新潟ではとりわけ、皆様ご存じのチャイコフスキーの名作を核に、ロシア音楽のノスタルジックで雄大な世界をお楽しみいただけるようにプログラミングしてみました。

今回は、私のナビゲートでお薦めの公演を紹介します!

ロシア音楽の王道、チャイコフスキーの傑作の数々を聴く

ロシア音楽を語るなら、まずはチャイコフスキーを制覇してみましょう!美しい旋律に満ちた交響曲・協奏曲を書いたチャイコフスキーの魅力をたっぷりと堪能してください。

まず、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、世界で最も有名なクラシック音楽といっても過言ではないと思います!公演111でこの名曲のソロを務めるのは、ロシア出身のピアニスト、アンドレイ・コロベイニコフです。彼はロシア語だけでなく数か国語の言語を操り、弁護士の資格までもっているマルチな才人なんですよ。もちろん、その超絶技巧とロシア音楽への造詣は随一です。共演するオーケストラのムジカ・ヴィーヴァは、チャイコフスキーが生きていた時代の編成で、この協奏曲を演奏してくれます。

このほか、バレエ音楽「くるみ割り人形」や「眠りの森の美女」など、チャイコフスキーは名曲もそろえてみました(公演211、313、314)。チャイコフスキー国際コンクールで最高位に輝いた川久保賜紀さんの熱演が聴けるヴァイオリン協奏曲(公演214)も必聴です。スイスのジュネーヴで完成されたヴァイオリン音楽の傑作中の傑作ですよ。



モスクワ大司教座合唱団の歌声は驚異です!

ロシア文化の歴史を語るうえで、ロシア正教(キリスト教のひとつ)を避けては通れません。ロシアの作曲家たちのほとんどは、ロシア正教の教会で演奏される音楽を作曲しています。ただしロシア正教の教会では、器楽は使用されないのです。その代わりに、人間の声によるアンサンブルが栄えたというわけです。 今回、新潟の皆様にご紹介するのは、モスクワ大司教座合唱団(公演213、233、312)。16・17世紀の正教典礼音楽のほか、めずらしいロシア民謡なども披露してくれます。1983年に創設された由緒ある男声アカペラ合唱団なのですが、ソ連時代に宗教曲が禁止されていたために、なかなか彼らの活動は外に広がりませんでした。モスクワ大司教座合唱団は、ソ連の解体後に国際的に高い評価を得たのです。お聴きいただければ、その声の力強さと独特の発声に魅了されてしまいますよ。とりわけ私自身、りゅーとぴあの能楽堂とモスクワ大司教座合唱団の化学反応に期待しているところです!



ピアノ三重奏曲から浮かび上がる、作曲家たちの関係

ロシアには、師や友人の死に際してピアノ三重奏曲を作曲するという"伝統"があります。まず、チャイコフスキーが書いたのが、有名な"ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」"(公演221)です。これは友人のニコライ・ルビンシテインの死に寄せてチャイコフスキーが作曲した名曲です。 そしてショスタコーヴィチは、大親友で音楽評論家だったソレルチンスキーの死を偲んで、ピアノ三重奏曲第2番を残しているのですよ(公演244)。 さらに今回、アレンスキーのピアノ三重奏曲第1番(公演344)も演奏されます。これはサンクトペテルブルク音楽院でチェロ教師としても活躍した大チェロ奏者カルル・ダヴィドフの死を想い作曲されました。 ピアノ三重奏曲から浮かび上がる音楽家たちの友情や尊敬の想いに、ぜひ耳を傾けてみてください。



新潟初!ル・ク・ド・クール ~ハート直撃コンサート~

「ル・ク・ド・クール~ハート直撃コンサート~」とは、私がLFJ東京で始めてご好評いただいているスペシャル・コンサートです。私自身が舞台上で司会を務め、イチオシのアーティスト達を次々に紹介していき、お薦めの音楽作品を聴いていただきます。 ル・ク・ド・クールとは、フランス語で「目玉/オススメ」の意です。私も毎年、DJになった気分で楽しませていただいているこの公演が、新潟でもスタートすることにわくわくしています。今回は、ピアノのビジャーク姉妹、ムジカ・ヴィーヴァ、モスクワ大司教座合唱団が登場します。皆様、会場でお会いしましょう!



ショスタコーヴィチを「メゾン」燕喜館で!

LFJ新潟の独自な点のひとつは、燕喜館・旧斎藤邸でのコンサート。私自身、はじめて訪れた時から、この伝統的な「メゾン」(仏語で家・館の意)の空間を心から気に入っています。今年、燕喜館ではショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲をたっぷりとご堪能いただきます。ショスタコーヴィチは、ソヴィエト時代に当局から政治的圧力を受けた作曲家。とても高度な作曲テクニックを持ち、とりわけ弦楽器の扱いが見事だった彼の作品は、名曲ばかりです。



「サクル」の由来、春の祭典

今年のラ・フォル・ジュルネのテーマは、「サクル・リュス(Sacre russe ロシアの祭典)」。既に皆様にお伝えしたように、このタイトルは、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典(Sacre du printemps サクル・デュ・プランタン)」にちなんでいます。「春の祭典」は、ロシアの高名な興行主セルゲイ・ディアギレフが率いたロシア・バレエ団により、1913年にパリで初演されました。当時そのあまりの前衛性により、物議を醸した作品です。20世紀の作曲家たちに大きな影響を与えた革命的な音楽といえます。 LFJ新潟でももちろん、「春の祭典」が演奏されます(公演324)。リディア&サンヤのビジャーク姉妹による、ピアノ連弾版。これは、ストラヴィンスキー自身の手により編曲された版なのですよ。今年の「サクル・リュス」の主役である「春の祭典」、必ず聴いてくださいね。



プロフィール

フランス・ナント市郊外に生まれる。音楽と経営管理学を学び、1979年ナント市にCREA(芸術研究制作センター)を創設。故リヒテルやアルゲリッチら一流アーティストたちの全面的な信頼を得、1981年より南仏で世界最大のピアノ音楽祭「ラ・ロック・ダンテロン・ピアノ・フェスティバル」を開催。1988年よりフォントブロー修道院でのコンサートの芸術監督を務めるなど、数多くのコンサートやフェスティバルをプロデュース。
1995年、クラシックを取り巻く壁を壊し、誰にでも開かれたクラシック音楽祭を目指して、「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」をナントでスタートさせる。クラシックの常識を覆す画期的なコンセプトに貫かれたラ・フォル・ジュルネは、ヨーロッパの数ある音楽祭の中でも最もエキサイティングなクラシック音楽祭としてセンセーションを巻き起こした。その波はリオデジャネイロ、東京、金沢など世界6都市に拡がる。中でも東京でのラ・フォル・ジュルネは3年目にして来場者100万人を超え、世界最大級のクラシック音楽祭として注目を集める。
近年は、年間1200本以上のコンサートで手腕を振るう、屈指のカリスマ・プロデューサー。